原稿を削る

たくさん書いてから削る、ということは、「書きながら完成に近づけていく」ということですよね。
僕の場合、あるときから、そういう書き方はやめました。
ではどうしているかというと、
「完成してから書く」
ということです。
これは頭の中ですべて文章の隅々までできあがってから書く、ということではありません。もっと、ぼやっとした気分の問題ですが、「できた」と思ってからワープロに向かいます。
「できた」と思う前に書き始めると、書いているうちに迷うことがあり、時間もかかります。またある程度以上、精度の高い要求に答えることもできません。
言葉での思考というのはけっこう密度の粗いものなのです。ですから、思考以前にイメージや直観的な把握が完成していて、そこに言葉をモザイクのようにはめていくという作業を実際にはしているように思われるのです。
文字数まで含めて、すべてをインプットしておいて、あとは冒頭からかき始め、すらすらと書いて、書き終わった時点で作業終わり、これが理想です。
言葉にしてから考えると、どうしても思考の痕跡が残ってきれいではありません。エネルギーの流れにムラが出るという感じ。焼き物で言うと、途中で予定変更して形を変えたものは、どうしてもきれいでない気がする。目に見えないヒビなんかが入っているような気がします。迷いなくさっと作られたモノがじつは上等です。
日本の弓道では「当ててから射る」というようなことを言いますね。
心の中で先に的を射抜いてから矢を放つから外すことがない、という訳です。
まあ、そんなにいつも立派な文章を書いているつもりもありませんが、気分としてはそういう気持ちで書いています。
その感覚の精度を高めていくと、下書きをするというプロセスさえも形にせずにすませることができるようになります。そして、より直接的にこまやかな表現の世界に入っていくことになると思います。