「光あれ、と言ったら光があった」というぐらいのもので。言葉というのは一瞬にして世界を作り出してしまう力があります。
たとえば、
梅干し。
10個の梅干し。
そして、どんぶりに一杯のレモンの絞り汁。
などと書いた場合に、口の中が酸っぱくなってよだれが出てきます。
これは言葉が知的な作用を持つだけではなくて、直接生理的な変化すら起こさせるパワーを持っているということです。
文章を書くということは、単なる言葉の意味の積み重ねではなく、目に見えぬ言葉のパワーを召喚し、錬金術的に組み合わせる技術に至ります。
真っ白なエディターの画面に、最初の言葉を打ち込むとき、そういう魔法を感じる人は、文章の道を遠くまで歩いていける人です。
じっさい言葉の世界の中では、私たちは一瞬にして宇宙を作り出すことも消すこともできます。
今ちょっと試しに銀河系を消してみましょう。
「……。
昨日は10個の銀河系を消した。
今日は30個を消す予定。
明日は50個だ。
……ああノルマがきつい。」
文章は本当のことだけを書くようにはできていません。プロレスに必ず場外乱闘があるように、リングの外の嘘の世界も宇宙としてとらえてみると、その虚実皮膜の間に豊かな表現の場所が見えてくることがあります。